【話題】iPS細胞を用いたパーキンソン病治療 ― 新たな細胞移植治療の条件および期限付き承認
2026.02.20
昨日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いたパーキンソン病治療薬「アムシェプリ®(ラグネプロセル)」が、条件および期限付き承認を取得したことがニュースになりました。
ご興味をお持ちの方も多いと思いますので、この機会に少しだけ解説をしておきたいと思います。
まず、iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)に代表される「多能性幹細胞」について簡単にご説明します。
多能性幹細胞とは、さまざまな組織や臓器の細胞へ分化する能力(多分化能)と、ほぼ無限に増殖できる能力(自己増殖能)をあわせ持つ細胞です。代表的なものがES細胞とiPS細胞です。
ES細胞は、発生初期の胚(胚盤胞)の内部細胞塊から樹立されます。発生初期の細胞は多様な細胞へ分化できるのではないかという発想に基づき開発されました。
一方、iPS細胞はどのような細胞なのでしょうか。
私たちの皮膚は、けがをすると皮膚細胞が増えて傷を修復します。しかし、皮膚細胞が骨や内臓の細胞に変化することはありません。つまり、通常は一度分化した細胞は別の種類の細胞にはなりません。これに対し、山中伸弥教授は、すでに分化した細胞に特定の遺伝子を導入することで初期化し、多能性を回復できることを発見しました。これが人工多能性幹細胞(iPS細胞)です。
ES細胞やiPS細胞は、理論上あらゆる細胞へ分化可能であり、現在では人工的に分化誘導することで多様な細胞や組織を作製できるようになっています。
パーキンソン病ではドパミン神経細胞が脱落しますが、ES細胞やiPS細胞からドパミン神経前駆細胞を作製し、患者さんの脳内へ移植する治療の研究が進められてきました。
今回の承認は、京都大学で実施された「パーキンソン病に対するヒトiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の細胞移植による安全性および有効性を検討する医師主導治験(第I/II相)」の結果を受けたものです。ドパミン神経細胞は本来、中脳黒質に存在しますが、移植はドパミンが作用する線条体の一部である被殻に行われます。
では、この治療によってどのような効果が期待されるのでしょうか。
主な目的は、移植した細胞が生着し、不足しているドパミンを産生することです。ただ、本治療による効果はこれだけではないかもしれません。本来のドパミン神経細胞には、内服したレボドパが変化したドパミンを貯蔵・放出・再取り込みする機能があります。この「緩衝作用」により、内服したレボドパの効果は安定して持続します。しかし病気の進行によりドパミン神経細胞が減少すると、レボドパの効果持続時間が短縮し、いわゆるウェアリングオフ現象(症状の日内変動)が出現します。移植した細胞が単にドパミンを作るだけでなく、本来の神経細胞に近い調節機能を獲得すれば、レボドパ治療の安定化も期待できる可能性があります。今後の更なる研究の発展を願うばかりです。
ただ、この治療はパーキンソン病だからといって全ての患者さんに適するものではありません。どのような患者さんに対して行うべきかなど今後の更なる検討が望まれます。
当センターでは、毎年4回の勉強会を開催し、このようなパーキンソン病に関する最新の話題もご紹介しています。また、週2回実施しているオンラインリハビリでもミニレクチャーを行っています。パーキンソン病の治療には多職種連携によるチーム医療が重要ですが、患者さん・ご家族もその大切なメンバーです。病気について正しく理解し、ともに治療方針を考えていくことが重要と考えています。当センターでは、患者さん・ご家族への教育にも力を入れています。病気についてよく知り、共に歩んでいきましょう。
2026年3月28日開催の勉強会のお知らせはこちら。
